アスベスト分析

アスベスト分析

建材中のアスベスト分析法

 過去、国内における建材中のアスベスト分析は「JIS A 1481」によって規定され、X線回折法と位相差分散顕微鏡による分散染色法を組み合わせて分析を行っていました。

 それに対し、2014年3月のJIS改正により国際標準(ISO)である偏光顕微鏡法がJISに組み込まれました。この方法は偏光顕微鏡、必要に応じて電子顕微鏡(SEM、TEM)を使用し、 アスベストの同定において、「形状や、様々な光学的特性を肉眼で観察し、判断する事」が重要視されています。

JIS改正の流れ(2014年)

    JIS A 1481-1:偏光顕微鏡による定性分析
    JIS A 1481-2:X線回折法と位相差分散顕微鏡による定性分析
    JIS A 1481-3:X線回折法による定量分析

アスベスト分析の難しさと課題点

1.毒性の由来が形状にあること

 アスベストの毒性は、あくまで形状が繊維状であることに起因し、 構成する元素自体はケイ素、鉄、マグネシウムなどといった自然界のどこにでもありふれたものです。 したがって、例えばある特定の希少元素・有害元素にターゲットを絞って分析するといった手法などはとれません。

2.種類の多様性

 同じ組成の鉱物でも形状によってアスベスト型と非アスベスト型が存在します。 試料の組成を判別するX線回折法においては、アスベスト型であるクリソタイルと非アスベスト型のリザルダイト、アンチゴライトは 似たような回折ピークが得られ判別が困難であるのと、それを補完する位相差分散染色法も分散色という一つの光学的特性のみでしか判断しないので、 一部光学的特性の似通った鉱物をアスベストと判定する恐れは否定できません。

X線回折チャートの比較

 以上のことから、アスベスト分析において、実際の試料を目で見て形状を観察し、様々な特性を観察する事は重要な要素と考えられます。
 偏光顕微鏡や電子顕微鏡を用いるとアスベストの形状を肉眼で確認することが可能です。

クリソタイル

リザルダイト

アンチゴライト

偏光顕微鏡による形状の比較(クロスニコル観察)

クリソタイル

リザルダイト

アンチゴライト

電子顕微鏡(SEM)による形状の比較

アスベスト分析に求められること

 1.正確にアスベストを同定できるか?(定性分析)
 2.アスベスト濃度を正確に測定できるか?(定量分析)
 3.将来大量に発生するアスベスト廃棄物の調査・分析に対して迅速に対応できるか?

  アスベスト分析において1、2の様に正確に定性・定量できるという事は、 言うまでも無く当然求められる要素でありますが、今後、建築物の解体の増加に伴って、 大量に発生するであろうアスベスト調査に対応する為には3の迅速性、 加えてコスト性がクローズアップされてくると予測できます。

偏光顕微鏡分析法の有用性

1.正確な分析

 試料の様々な光学的特性を観察する事により多様な情報を得ることができるため、試料の同定がより正確になります。

 形状の確認/色と多色性/複屈折性の有無の判定/
 消光特性と消光角の測定/伸張の符号の判定/分散色(屈折率)の観察

2.迅速な分析が可能

 試料の前処理が簡単(試料の性質によっては前処理自体が不要なものも有り。)であることに加え、顕微鏡は比較的軽量で持ち運びも可能であるので、解体現場での迅速なオンサイト対応にも適用可能です。

3.アスベスト型と非アスベスト型を容易に判別可能

 X線回折法ではアスベスト型角閃石と非アスベスト型の角閃石の違いを判別できず、それを補完する位相差分散染色法も試料の状態によっては形状を判別するのが困難な場合があります。一方、偏光顕微鏡では容易に両者を識別できます。(例:繊維状トレモライトと劈開状トレモライト)

繊維状

劈開状

偏光顕微鏡による繊維状トレモライトと劈開状トレモライトの比較(クロスニコル+鋭敏色検板観察)

 

 

偏光顕微鏡によるアスベストの定性分析(JIS A 1481-1)

1.形状の確認

 アスベストはAsbestiformと呼ばれる特有の形状を持っています。

クリソタイル:曲率を持った繊維

非アスベスト:劈開状

角閃石系アスベスト:針状

非アスベスト:粒子状

偏光顕微鏡によるアスベストと非アスベストの形状比較(クロスニコル+鋭敏色検板観察)

2.色と多色性

 アスベストのように複屈折性を示す物質では、繊維をポラライザーに対して垂直・平行に配置した場合、 色が異なって見えます。この現象を多色性と呼びます。 加熱されたアモサイトとクロシドライトは多色性が顕著であり、判別の有力な目安になります。

加熱されたアモサイト
(偏光方向に対して垂直に配置)

クロシドライト
(偏光方向に対して垂直に配置)

加熱されたアモサイト
(偏光方向に対して平行に配置)

クロシドライト
(偏光方向に対して平行に配置)

3.複屈折性の有無の確認

 偏光板を2枚重ねたクロスニコル下でステージを回転させながら観察すると、複屈折性を示さないグラスファイバーは常に暗黒ですが、複屈折性を示すアモサイトは明るさが変化して見える事から、両者を容易に識別することができます。

グラスファイバー(複屈折性無し) アモサイト(複屈折性有り)

オープンニコル観察

オープンニコル観察

クロスニコル観察

クロスニコル観察

複屈折性の有無による比較
4.消光特性と消光角の測定

 クロスニコル下でステージを回転させながらアモサイトの繊維を観察すると、90°ごと(0°→90°→180°→270°)に計4回暗黒になります。 この位置を「消光位」といい、またその中間の45°の位置(45°→135°→225°→315°)では最も明るくなります。この位置を「対角位」といいます。 このように、消光位が90°ごとに現れるものを「直消光を示す」と呼び、 90°よりずれた角度で消光を示すものを「斜消光を示す」と呼びます。

消光位

対角位

消光位と対角位(クロスニコル観察)

5.伸長の符号の判定

 クロスニコルに鋭敏色検板を挿入した状態で繊維が右上がり方向で青色、左上がり方向で黄色を示すものを伸長の符号が正、逆を負と呼びます。6種のアスベストの中ではクロシドライトのみ負の伸長性を示します。

アモサイト(伸長の符号 正) クロシドライト(伸長の符号 負)

青色

黄色

黄色

青色

伸長の符号(クロスニコル+鋭敏色検板観察)
6.分散色(屈折率)の観察

 偏光を通した状態で分散色を観察すると、繊維をポラライザーに対して垂直・平行に配置した場合でそれぞれ色が異なって見えます。アモサイトの場合、屈折率1.680の浸液の中では、垂直で青色、平行で山吹色に見えます。

偏光方向に対して平行に配置 偏光方向に対して垂直に配置
クリソタイル
浸液の屈折率
1.550

マゼンタ

青色

アモサイト
浸液の屈折率
1.680

金色

青色

クロシドライト
浸液の屈折率
1.700

明るい青色

青色

アスベストの分散色(分散対物レンズにて観察)

偏光顕微鏡によるアスベストの定量分析(JIS A 1481-4)

 本方法は2014年に制定された国際規格であるISO22262-2を基に作成された規格であり、主に偏光顕微鏡を使用します。適用範囲は多岐にわたり、アスベストを不純物として含有する恐れのある天然鉱物(タルク、バーミキュライトなど)の定量分析にも適用可能です。
 顕微鏡観察において障害となるマトリックス(非アスベスト成分)を灰化・酸処理・浮遊沈降などの前処理を施す事で質量削減(重量濃縮)し、得られた最終残渣についてポイントカウント法を適用し、実体顕微鏡で直接取り出した(ハンドピックした)アスベスト繊維の直接重量と足し合わせてアスベストの含有率を求めます。

JIS A 1481-4では、天然鉱物及びそれを原料としてできた製品についても分析可能です。

ポイントカウント法

 ポイントカウント法は鉱物学の分野では一般的に使用されてきました。厚さが均一な鉱物剥片スライドを等間隔に動かし、接眼レンズの十字線にヒットした鉱物のカウント数によって面積比を求め、そこに各鉱物の密度をかける事で重量比を算出する方法です。

カウント対象粒子

スライド中最大径粒子の10%以上の径の粒子

カウント対象繊維

スライド中最大繊維径の20%以上の径の繊維

ポイント数

ポイントは20アスベストポイント又は13,000総ポイントに達するまで。

含有率の算出

  100/W × (M+R×A/N)
  W:元の試料の質量(g)
  M:手動で選んだアスベストの質量(g)
  R:ろ紙上の最終残渣の質量(g)
  A:計数されたアスベストポイント数
  N:計数された空でないポイント数